内見のあと、あるいは申込みの場面で、「おひとり暮らしだと、万一のときが心配で……」と言葉を濁されたことはありませんか。年齢を理由に線を引かれたように感じて、悔しい思いをされた方もいらっしゃると思います。ですが、この言葉の裏にあるのは「あなたを断りたい」という気持ちではなく、「もしものときに、自分たちが困ってしまう」という運営上の心配であることがほとんどです。心配の中身がはっきりすれば、こちらから差し出せる答えも見えてきます。この記事では、大家さんが実際に気にしている3つのポイントと、国が整えている制度をふまえた具体的な伝え方を整理します。
大家さんの「心配」の中身は、大きく3つ
ひと口に「心配」と言っても、その中身は漠然とした不安ではなく、かなり具体的な3つの困りごとに分かれます。①異変に気づくのが遅れること、②お部屋の原状回復や残された家財の片づけ、③賃貸借契約の解約手続き(相続人が分からないと進めにくい)——この3つです。逆に言えば、この3点に見通しが立てば、大家さんの不安はかなり小さくなります。
背景となる数字も見ておきましょう。警察庁の集計では、2024年(令和6年)中に警察が取り扱った死体20万4,184体のうち、自宅で亡くなった一人暮らしの方は7万6,020体(37.2%)でした[1]。数字だけを見ると気持ちが沈むかもしれませんが、大家さんが本当に恐れているのは「亡くなること」そのものよりも発見が遅れることです。ここが心配の核心だと分かれば、話の焦点は自然と「どうすれば早く気づけるか」に移ります。また、国立社会保障・人口問題研究所の推計では、65歳以上の単独世帯は2050年に1,083.9万世帯へ増える見通しです[2]。ひとり暮らしのシニアの入居は、貸す側にとっても避けて通れないテーマになっており、だからこそ受け入れやすくする仕組みが年々整ってきています。
誤解①「亡くなったら、すぐ事故物件になる」わけではない
大家さんの心配の一因に、「室内で亡くなられると、その後の募集で不利になるのでは」という思い込みがあります。ここは国の整理を知っておくと話が進みます。国土交通省は2021年(令和3年)10月に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定しており、そこでは、対象の不動産で発生した自然死や、転倒事故・誤嚥といった日常生活のなかでの不慮の死については、原則として告げなくてもよいと整理されています[3]。ただし、発見が遅れて特殊清掃などが必要になった場合の扱いは異なり、また借主から尋ねられた場合には伝える必要があるとされています。個別の判断は取引にあたる宅建業者が行うものですが、「自然死であればただちに告知対象になるわけではない」という前提を双方が共有できると、話し合いの空気は変わります。そして、ここでもポイントになるのは早く気づける体制があるかどうかです。
誤解②「後始末を大家さんが背負う」わけでもない
2つめの誤解は、契約の解約や残された家財の片づけを、大家さんが自力で抱え込むことになる、というものです。実はこの部分には国が用意したひな形があります。国土交通省と法務省がまとめた「残置物の処理等に関するモデル契約条項」は、単身の高齢者(60歳以上)が賃貸住宅を借りる場面を想定し、万一のときの解約手続きと残置物の処理をあらかじめ受任者に委任しておくための契約条項です[4]。2025年(令和7年)10月には第2版が公表され、実務で使いやすいよう手引きやQ&Aも用意されています。
入居を申し込む側からこの制度に触れられると、印象は大きく変わります。「後のことは考えていない人」ではなく「段取りまで考えている人」として受け取られるからです。契約実務は不動産会社の担当者が進めるものなので、こちらは「こういう仕組みの活用も相談したい」と意向を伝えれば十分です。保証まわりの備え方については保証人がいない高齢者の賃貸|家賃保証会社の使い方と選び方もあわせてご覧ください。
安心してもらう伝え方|3つの材料を、先に差し出す
コツは、不安を打ち消そうとするのではなく、相手が口に出す前にこちらから材料を出すことです。そろえておきたいのは次の3つです。
1つめは見守り(安否確認)の利用意向。3つの心配のうち最大の「発見の遅れ」に直接応える材料で、いちばん効きます。見守りサービスを使う予定があるなら、申込みの段階で伝えておきましょう。2つめは緊急連絡先。お子さんやご兄弟、甥姪など、いざというとき連絡がつく方を1名お願いしておきます。遠方でも構いません。3つめは家賃保証会社の利用です。連帯保証人を立てられなくても、保証会社を使えば家賃の不安には応えられます。この3つがそろっていると、大家さんは「困りごとの出口が見えている入居者」として検討しやすくなります。
そのまま使える、伝え方の例
実際の言い方としては、次のような一言が伝わりやすいでしょう。
・「ひとり暮らしですので、見守りサービスを利用するつもりです。異変があれば緊急連絡先にすぐ連絡が入る形にします」
・「万一のときの解約や残置物については、国土交通省のモデル契約条項を使う方法があると聞いています。ご相談させてください」
・「家賃は保証会社を利用します。緊急連絡先も用意しています」
反対に、「元気なので大丈夫です」とだけ答えるのは、気持ちは伝わっても根拠がないため、相手の不安はそのまま残ってしまいます。気持ちではなく、しくみで答える——これが、話が前に進むいちばんの近道です。なお、こうした受け入れを後押しする公的な枠組みとして、国土交通省の住宅セーフティネット制度もあります。高齢者を含む住宅確保要配慮者向けの登録住宅や、入居中の見守り・残置物への対応まで含めた仕組みが整えられており、2025年10月からは制度が拡充されました[5]。「どこに相談すればいいか分からない」というときは、この制度に詳しい窓口を頼るのも一つの方法です。物件探し全体の進め方は高齢者・シニアの賃貸の探し方|断られない5つの準備を、地域ごとの事情は神奈川県で高齢者・シニアが賃貸を探すコツなどの地域別コラムを参考にしてください。
まとめ:不安には、しくみで答える
「孤独死が心配」という言葉は、拒絶ではなく、大家さんが抱える3つの具体的な困りごと——発見の遅れ、残置物と原状回復、解約手続き——の表れです。自然死がただちに告知の対象になるわけではないこと、残置物と解約には国のモデル契約条項があること、そして見守り・緊急連絡先・家賃保証という3つの材料をこちらから差し出せること。これらを知っているだけで、同じ場面での会話はずいぶん違ったものになります。ひとりで抱え込まず、高齢者の入居に前向きな不動産会社に相談しながら、落ち着いて準備を進めていきましょう。
- 自宅で死亡した一人暮らしの者 7万6,020体・警察取扱死体20万4,184体の37.2%(2024年/令和6年中):警察庁『令和6年中における警察取扱死体のうち、自宅において死亡した一人暮らしの者について』。npa.go.jp
- 65歳以上の単独世帯 2050年1,083.9万世帯(2024年推計):国立社会保障・人口問題研究所『世帯数の将来推計(全国推計)』。ipss.go.jp
- 自然死・日常生活の中での不慮の死は原則として告げなくてもよい(2021年/令和3年10月策定):国土交通省『宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン』。mlit.go.jp
- 単身高齢者(60歳以上)向けの解約・残置物処理のひな形(2021年策定・2025年10月 第2版):国土交通省・法務省『残置物の処理等に関するモデル契約条項』。mlit.go.jp
- 住宅確保要配慮者向けの登録住宅・居住サポート(2025年10月拡充):国土交通省『住宅セーフティネット制度』。mlit.go.jp