高齢の親の住み替え|家族が知っておく賃貸の進め方

久しぶりに実家へ帰ったら、玄関先の段差でふらついた親の姿にひやりとした。冬の廊下が思いのほか寒い。買い物に出るバス便が減っていた——親の住み替えを考えはじめるきっかけは、たいてい、こうした小さな気づきの積み重ねです。とはいえ、いざ動こうとすると「どこから手をつければいいのか」で立ち止まってしまう方がとても多いのが実情です。この記事では、離れて暮らすご家族が親の賃貸への住み替えを支えるときに、何を、どの順番で進めればよいのかを、公的な制度とデータをもとに整理します。あわてて物件を探しはじめる前に、ぜひ一度、全体の流れを見ておいてください。

最初にすること|住み替えの目的を1つに絞る

住み替えの相談でつまずきやすいのは、目的がいくつも混ざったまま物件を探しはじめてしまうことです。「段差をなくしたい」「子の家の近くに来てほしい」「今の家の管理が重い」「万一のときに気づける形にしたい」——どれも大切ですが、優先順位を決めないまま探すと、条件が増えすぎて候補が見つからず、話し合いが行き詰まってしまいます。

おすすめは、家族で話す前に「これが解決すれば住み替えた意味がある」という条件を1つだけ決めることです。たとえば「エレベーターのある建物で階段を使わない生活にする」なのか、「病院とスーパーが徒歩圏にある場所へ移る」なのか。軸が1本決まると、間取りや築年数、駅からの距離といった他の条件は柔軟に譲れるようになり、選べる部屋が一気に広がります。

そしてもう1つ。決めるのはあくまで親御さん本人です。長年暮らした家を離れる決断は、ご家族が想像する以上に重いものです。「危ないから引っ越して」と結論から入るのではなく、「冬の廊下、寒くない?」と暮らしの実感から話を始めると、本人の言葉で困りごとが出てきます。住み替えは、説得ではなく、本人の希望を形にする作業だと考えると進めやすくなります。

いまの賃貸市場と、シニアが置かれている状況

数字で全体像も見ておきましょう。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、65歳以上の単独世帯は2050年に1,083.9万世帯まで増える見通しです[1]。内閣府『令和7年版高齢社会白書』によれば、高齢化率(65歳以上人口の割合)は2024年10月1日現在で29.3%[2]。つまり、親世代のひとり暮らしは特別な事情ではなく、社会全体で標準的になりつつある暮らし方です。

住まいの供給側にも目を向けると、総務省『令和5年住宅・土地統計調査』(2023年)では空き家率は13.8%、そのうち賃貸用の空き家は443.6万戸にのぼります[3]。借り手を探している部屋は、決して少なくありません。「高齢だから借りられない」と最初からあきらめる必要はなく、実際には受け入れに前向きな貸主にどう出会うかが要点になります。年齢を理由に断られにくくするための準備は、高齢者・シニアの賃貸の探し方|断られない5つの準備で具体的にまとめています。

家族が担うと話が進む「3つの役割」

親の住み替えでご家族が力を発揮できるのは、実は物件探しそのものよりも、貸主側の不安に応える部分です。担っていただきたい役割は次の3つです。

1つめは、緊急連絡先になること。 ひとり暮らしのシニアの入居審査で、貸主がまず確認したいのが「いざというとき、誰に連絡できるか」です。遠方にお住まいでも構いません。申込みの段階で「息子(娘)が緊急連絡先を引き受けます」と伝えられるだけで、話の通りが目に見えて変わります。

2つめは、家賃保証の段取りを一緒に確認すること。 連帯保証人を立てにくい場合でも、家賃保証会社を利用すれば家賃の不安には応えられます。年金収入での審査の考え方や費用の目安は保証人がいない高齢者の賃貸|家賃保証会社の使い方と選び方で解説しています。書類の準備や記入は、ご家族が手伝うと格段にスムーズです。

3つめは、見守りの体制を用意すること。 貸主がもっとも気にしているのは「異変に気づくのが遅れること」です。ここに見守りサービスという答えを先に差し出せると、印象は大きく変わります。実際の伝え方は「孤独死が心配」と言われたら|大家さんに安心してもらう伝え方にまとめました。ご家族にとっても、日々の安否がゆるやかに分かる仕組みは、離れて暮らす不安をやわらげてくれます。

相談先の順番|「地域包括支援センター」から始める

住み替えというと不動産会社に直行しがちですが、先に立ち寄っておきたい窓口があります。地域包括支援センターです。厚生労働省の説明にあるとおり、市町村が設置する高齢者の暮らしを地域で支えるための総合相談窓口で、保健師・社会福祉士・主任ケアマネジャーなどが在籍し、介護・福祉・健康・住まいの相談に無料で応じています[4]。おおむね中学校区に1か所の目安で設置されており、親御さんがお住まいの市区町村の窓口へ相談できます。

ここで確認しておきたいのは、「そもそも賃貸への住み替えが最適なのか」という点です。手すりの設置や段差解消といった住宅改修、介護保険サービスの利用で今の家に住み続けられるケースもあります。逆に、日常生活に支援が要る状態であれば、賃貸ではなく高齢者向けの住まいが向いている場合もあります。地域の事情を知る専門職に一度整理してもらうと、その後の物件探しの精度がぐんと上がります。

そのうえで住まい探しに進むときは、国土交通省の住宅セーフティネット制度も知っておくと選択肢が広がります。高齢者を含む「住宅確保要配慮者」の入居を拒まない賃貸住宅を登録する仕組みで、2025年(令和7年)10月からは居住サポート住宅の創設など制度が拡充されました[5]。各都道府県の居住支援協議会や居住支援法人が相談を受け付けており、民間の物件情報だけでは届かない選択肢に出会えることがあります。

契約のときに知っておきたい、家族の負担を軽くする仕組み

親の住み替えを支えるご家族が気にかけがちなのが、「万一のとき、契約や荷物の始末を自分たちが背負うことになるのでは」という点です。この不安には、国が用意したひな形があります。国土交通省と法務省がまとめた「残置物の処理等に関するモデル契約条項」は、単身の高齢者(60歳以上)を想定し、万一のときの賃貸借契約の解約と残置物の処理をあらかじめ受任者に委任しておくための契約条項で、2025年(令和7年)10月には第2版が公表されています[6]

この仕組みを知っているかどうかで、契約時の話し合いの雰囲気は変わります。貸主にとっては「万一のときの出口が見えている入居者」となり、ご家族にとっては段取りが事前に決まっている安心があります。契約実務は不動産会社が進めるものですので、こちらからは「こうした仕組みの活用も相談したい」と意向を伝えれば十分です。なお、地域によって物件の探し方や交渉の余地は異なります。首都圏の事情は神奈川県で高齢者・シニアが賃貸を探すコツなど、地域別のコラムもあわせてご覧ください。

まとめ|順番を決めれば、住み替えは進む

親の住み替えは、①目的を1つに絞る、②地域包括支援センターで暮らし全体を整理する、③家族が緊急連絡先・家賃保証・見守りの3つを引き受ける、④高齢者の入居に前向きな不動産会社と契約を進める——この順番で考えると、驚くほど道筋が見えてきます。急な体調の変化で慌てて動くより、元気なうちに家族で話しておくほうが、本人の希望を丁寧に反映できます。ひとりで抱え込まず、公的な窓口と専門家の力を借りながら、親御さんが「移ってよかった」と思える住まいを一緒に探していきましょう。

出典
  1. 65歳以上の単独世帯 2050年1,083.9万世帯(2024年推計):国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計(全国推計)』。ipss.go.jp
  2. 高齢化率29.3%(2024年10月1日現在):内閣府『令和7年版高齢社会白書(全体版)』。cao.go.jp
  3. 空き家率13.8%・賃貸用の空き家443.6万戸(2023年/令和5年):総務省統計局『令和5年住宅・土地統計調査』。stat.go.jp
  4. 高齢者の介護・福祉・健康・住まいに関する市町村の総合相談窓口:厚生労働省『地域包括ケアシステム(地域包括支援センター)』。mhlw.go.jp
  5. 住宅確保要配慮者の入居を拒まない登録住宅・居住サポート住宅(2025年10月拡充):国土交通省『住宅セーフティネット制度』。mlit.go.jp
  6. 単身高齢者(60歳以上)向けの解約・残置物処理のひな形(2021年策定・2025年10月 第2版):国土交通省・法務省『残置物の処理等に関するモデル契約条項』。mlit.go.jp

親御さんの住み替え、まずはご家族から相談を

「どこに相談すればいいか分からない」という段階で構いません。高齢者の入居に前向きな窓口へおつなぎします。見守りや保証のご相談もあわせてどうぞ。